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判例(裁判例)紹介 2014年10月アーカイブ

養育費と子ども手当(H22.6.24判決)

(はじめに)
  当事務所には、佐世保では数少ない女性弁護士が在籍していることもあり、離婚や男女問題に関するご相談を受けることが多いです。
  中でも、養育費や子ども手当に関するトラブルも多いので、今回は、養育費の算定と子ども手当の関係に関する裁判例(広島高判平成22年6月24日(平成21年(ネ)第569号)離婚等請求控訴事件)を取り上げます。
 
(事案の概要)
  本件は,結婚して10年余りを経過し,3人の子どもをもうけた夫婦のうちの妻であるXが,夫であるYに対し,婚姻を継続し難い重大な事由があるとして,離婚(親権者をXに指定する旨の申立てを含む。)及び慰謝料300万円の支払を求めるとともに,子どもらの養育費,財産分与及び年金分割のための標準報酬等の按分割合に関する各処分を求めた事件である。
  原審は,Xの上記各請求中,離婚(親権者をXに指定)及び慰謝料100万円の支払の限度で認容し,その余を棄却した上,YはXに対し,養育費として,子どもらが成人に達する日の属する月まで各月額7万7000円を支払うべきこと,財産分与として,760万円を支払うべきこと及び上記按分割合を0.5と定める旨の各処分をする旨の判決を言い渡したところ,Yが原判決を不服として控訴した。
  Yは,控訴審において,養育費の算定に当たっては,平成22年4月1日から子ども手当が一人当たり毎月1万3000円支給されることになっており,また,来年度からはこれが増額されるため,同金額については,養育費から控除されるべきである旨を主張した。
 
(裁判所の判断)
 本件の争点の一つは,養育費から子ども手当を控除すべきか否かである。
 裁判所は,平成22年度における子ども手当の支給に関する法律は,次代の社会を担う子どもの健やかな育ちを支援するために,平成22年度における子ども手当の支給をする趣旨で制定された同年度限りの法律であり,政府は,平成23年度以降の子育て支援に係る全般的な施策の拡充について検討を加え,その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとされていること,その支給要件も,監護者である父又は母の所得に関する制限が設けられておらず,厚生労働省雇用均等・児童家庭局長の平成22年3月31日付け都道府県知事宛て通知においても,子ども手当については,子育てを未来への投資として,次代を担う子どもの育ちを個人や家族のみの問題とするのではなく,社会全体で応援するという観点から実施するものであると説明されていることからすると,子ども手当の支給は,民法上の扶養義務に淵源を有する養育費の支払に影響を与えるものではないと解されるし,少なくとも,平成22年度限りの法律である同法による子ども手当について,これを継続的な養育費算定において考慮することは妥当でないというべきであるとし,Yの主張を認めなかった。 

物損(車両の損害)(H24.3.15)

(はじめに)
 当事務所でご依頼の多い交通事故案件について,今回は,物損(損害賠償請求)に関する裁判例(東京地判平成24年3月15日(平成23年(レ)第1478号 損害賠償請求控訴事件)をご紹介いたします。
 
(事案の概要)
 本件は,Yが運転する自動車とXが使用するタクシー車両(LPガス車,以下「本件車両」という。)との間で発生した交通事故により,本件車両が損傷を受け,損害を被ったとして,Xが,Yに対し,不法行為(民法709条)に基づき,本件車両の修理代金相当額及びこれに対する不法行為の後である訴状送達日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。
 Yは,LPガス車には中古車市場がないから,法定耐用年数(3年)を基準として定率法により減価償却して本件車両の時価額を算定すべきであるとし,本件車両は初年度登録から既に3年9か月を経過しており,修理代金は時価額を超え,経済的全損となると主張した。
 原審は,経済的全損にはならないとして,Xの請求を全部認容したため,これを不服としてYが控訴した。
 
(東京地方裁判所の判断)
 本件の争点は,本件車両の損害額である。
 控訴審である裁判所(東京地裁)は,本件車両は,中古車市場が存在しないLPガスを使用し走行距離が約40万キロメートルに達するタクシー車両であるから,中古車市場が存在する同一車種,同一年式のガソリン車を使用する自家用車両の中古車価格を参考としても,その時価を合理的に認定することは困難であるとし,他方,自動車の時価が税法上の減価償却後の価格と一致するものでないこともまた明らかであって,法定耐用年数を基準として定率法により減価償却をしても,自動車の時価を適切に認定することはできないことから,本件については,タクシー車両の一般的な使用期間を基準として定率法により本件事故当時の本件車両の時価を算出し,これをもって本件車両の時価と認めるのが最も合理的であるというべきとした。
 そして,タクシー車両の一般的な使用期間を5年,最終残価率を10パーセントとして,タクシーの時価を算出した上,再取得費用としてタクシーとしての装備に要する費用を加算した額が,修理費用を上回るから,経済的全損とはならないとして,修理費用相当額を損害と認定し,控訴人の控訴を棄却した。
 
佐世保・長崎の弁護士 
竹口・堀法律事務所 

脱法ハーブ(危険ドラッグ)と故意(H24.12.6判決)

(はじめに)
 弁護士といえば,弁護人としての活動を思い浮かべる方が多いと思います。実際には,弁護士が扱う事件全体の中では,刑事事件は少ないですが,当事務所でも,数多くの刑事事件を取り扱っています。
 中でも,自動車運転に関する刑事事件は多いものの1つですので,今回は,危険運転致傷事件に関する裁判例をご紹介させていただきます。
 また,最近,いわゆる脱法ハーブ(危険ドラッグ)が社会的に問題視されていることから,脱法ハーブ(危険ドラッグ)の影響による危険運転致傷事件に関する裁判例(京都地判平成24年12月6日(平成24年(わ)第817号危険運転致傷被告事件))をご紹介します。
 
(事案の概要)
 本件は,被告人が運転開始前に使用した脱法ハーブの影響により,幻聴,幻覚又は意識消失等意識の変調を来し,前方注視及びハンドル・ブレーキ等の適切な運転が困難な状態で自動車を走行させ,その際の追突事故によって2名を負傷させたとして,危険運転致傷罪に問われた事案である。
 弁護人は,被告人が,本件事故当時,正常な運転が困難な状態であることの認識がなかったことから,危険運転致傷罪の故意が認められず無罪である旨主張した。
 
(京都地方裁判所の判断について)
 本件の争点は,被告人における危険運転致傷罪の故意の有無である。
 京都地裁は,被告が平成20年冬頃からいわゆる脱法ハーブの吸引使用を開始し,使用後に自動車を運転した際,対向車線に大きくはみ出して走行したり,突如ブレーキをかけて停止することがあったこと等を認め,被告人は,運転を開始した段階で,脱法ハーブを使用することによって意識障害等を起こすことがあることを認識していたことは明らかであり,被告人が脱法ハーブ使用後に自動車を運転した際,その影響によって正常に運転ができなかったり,そのおそれが生じた経験が多数回あったことが認められること,妻と脱法ハーブによる事故に関するニュースについて会話した際には妻から脱法ハーブ等の使用の有無について追及を受け,事実に反してこれを否定する発言をしていたものである上,当時被告人は脱法ハーブを使用した上で自動車運転を繰り返しており,その際には「固まる」状態になったり,その間の記憶がないといった経験を繰り返していたものであるから,被告人は,脱法ハーブを使用し,その影響下で自動車を運転した場合,運転操作等が困難となって自動車事故を引き起こす危険性を一層強く認識したものと推認することができるとした。
 そして,以上によれば,被告人は前記運転開始の時点において本件脱法ハーブをその直前に使用したことにより自動車の正常な運転が困難な状態となり得る蓋然性を認識していたといえることから,被告人に危険運転致傷罪の故意があったことが認められると結論づけた。
 
佐世保・長崎の弁護士 
竹口・堀法律事務所 

賃貸借契約に関する裁判例(東京高判平成26年4月9日(平成25年(ネ)第322号))

(はじめに)
 当事務所では,不動産問題や賃貸借契約に関する問題についてご相談を受けることも多いので,賃貸借契約について気になった裁判例(東京高判平成26年4月9日(平成25年(ネ)第322号))をご紹介いたします。
 
(事案の概要)
 本件は,アパート1階の居室(本件建物)の賃貸借契約の賃貸人であるXが,賃借人であるYに対し,Yによる本件建物の近隣住民及び本件建物の他の入居者に対する度重なる迷惑行為によって,賃貸人と賃借人との間の信頼関係が著しく損なわれ,破壊されたことを理由として本件賃貸借契約を解除したと主張し,本件賃貸借契約の終了に基づく本件建物の明渡しを求めた事案である。
 XY間の賃貸借契約の約款には,①賃借人は本件建物内において近隣の迷惑となるような行為をしてはならない,これに違反して近隣と紛争が生じた場合は,賃借人の責任においてこれを解決するものとし,関係者の改善通告に従わない場合は,賃貸人は本件賃貸借契約を解除することができる,②賃借人が粗野又は乱暴な言動により,他の入居者に迷惑・不快の感を抱かせるおそれが明らかな場合は,賃貸人は賃借人に対する通知・催告を要せず,本件賃貸借契約を解除することができる,③本件賃貸借契約において,賃貸人・賃借人間の信頼関係が著しく損なわれたと認めた場合は,賃貸人は賃借人に対する通知・催告を要せず,本件賃貸借契約を解除することができる旨の特約が存在した。
 原審は,Xの請求を認容したところ,これを不服としたYが控訴した。
 
(東京高等裁判所の判断について)
 本件の争点は,Yの近隣住民等に対する迷惑行為を理由とする賃貸借契約解除の効力の有無である。
 本判決は,Yが,近隣住民等の雨戸の開閉,立ち話,子供の遊び声,飼い犬の鳴き声,室外機の音など,社会生活上日常的に発生する音に対して嫌悪感を示し,深夜に怒鳴り散らしたり,頻繁に匿名を装って警察に通報したり,保健所に連絡するなどしたほか,「犬の鳴き声がうるさい。損害賠償する。」「早朝,食器等の音をガチャガチャ立てて響かせて非常に迷惑だから静かにすること。夜も話し声が大きくアパートに音が漏れて,とてもうるさいから気をつけること。頭痛がひどくなるから静かにすること。」等の警告文を記載した葉書やメモを近隣住民等の自宅のポストに度々投函したり,夜中に本件建物の玄関のドアや窓のシャッターを大きな音を立てて閉めるなどの迷惑行為を行ったこと,Yによる度重なる近隣住民等に対する迷惑行為に耐えかねた近隣住民等が16名の連名で区役所及び警察に対して善処を求める要望書を提出する事態となり,更には本件建物の隣室の入居者が賃貸借契約を解約して退去し,その後10か月以上にわたり空き室となって賃料が受領不能となったためXが隣室の新入居者を決めるために通常の賃料から減額したこと,Yは本件解除の後においても同室に入居した者に対して同様の迷惑行為を行い,同入居者からXに対して苦情の申入れがされている等を認定した上で,本件賃貸借契約の基礎となる賃貸人であるXと賃借人であるYとの間の信頼関係は,本件特約が定める禁止行為に該当すると認められ,本件特約に違反するYによる上記の近隣住民等に対する度重なる迷惑行為によって著しく損なわれ,完全に破壊されており,その回復の見込みはないといわざるを得ないとし,本件解除を有効であるとした。
 
佐世保・長崎の弁護士 
竹口・堀法律事務所 

交通事故の裁判例(京都地判平成26年2月4日損害賠償請求事件)

(はじめに)
 当事務所では,多数の交通事故案件を取り扱っていることから,今回は,交通事故について気になった裁判例(京都地判平成26年2月4日損害賠償請求事件(平成25年(ワ)第126号))をご紹介いたします。
 
(事案の概要)
 Aは加害車両を運転中,事故現場の交差点手前において,前方を走行中のタクシーに追突したが,そのまま加速しながら,交差点手前で信号待ちのため停車中の車を追越し,赤色信号を無視して交差点に進入した。
 その際,Aの運転する車両は,横断歩道を歩行中のBを跳ね,電柱に衝突して停止した。B(当時68歳)は,衝突後,約1時間後に死亡し,Aも同日,死亡した。
 そこで,Bの相続人らは,Aの相続人ら及びAの会社(車の保有者)に対し,損害賠償を請求した。
 
(京都地方裁判所の判断について)
 本件における主たる争点は,損害額である。裁判所は,特に,死亡慰謝料について,Bは,本件事故当時68歳の健康な主婦であり,夫と2人の息子の家事一切を1人で担うとともに,急性骨髄性白血病を発症し療養中であったX2の付添看護を主に担っていたこと,制限速度を超える速度で,かつ赤信号を無視して歩行者が多数横断中の本件交差点に加害車両を進入させ,横断中のBをはねて負傷させながら,加害車両を停止させて救護する等の措置を講じることもなかったAには重大な過失がある一方,横断歩道を青信号にしたがい歩行していたBには何らの落ち度もなく,事故態様は悪質であること,楽しい花見のはずが一転,このような事故に巻き込まれて重傷を負い,蘇生もかなわず,家族に別れを告げるいとまもないまま命を奪われ,夫や子らとりわけ病気療養中の子の将来を見届けることができなかったBの苦痛や無念,心残りは図り知れないこと等から,2700万円を認めた。
 逸失利益については,Bが68歳の主婦であり,夫及び子の合計3人と同居し,家事一切を担っていたこと,X2は,急性骨髄性白血病を発症し,抗ガン剤治療や骨髄移植のために入通院を繰り返し,本件事故当時も2週間に1度の通院治療を要する状態にあったところ,その付添看護は主にBが行っていたこと等,X2の付添看護を含むBの家事労働の内容から,女性労働者全年齢平均賃金を基礎収入とし,就労可能年数については平均余命の約半分,家事分にかかる生活費控除率は50%として家事分の逸失利益を1478万1238円と認定した。その他,年金分の逸失利益についても認定している。 

佐世保・長崎の弁護士 
竹口・堀法律事務所 

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