竹口・堀法律事務所


判例(裁判例)紹介


損害賠償請求事件(最高裁判所第二小法廷 平成7年11月10日)


2019/12/06 13:23

本判決は、被保険者が配偶者に対して負担する損害賠償責任について保険会社の保険金支払義務の免責を定める自家用自動車保険普通保険約款の第1章賠償責任条項8条3号にいう「配偶者」には、法律上の配偶者のみならず、内縁の配偶者も含まれるものと解するのが相当であると判示しました。

[事案の概要]
 Aは平成元年6月9日、先行車両を避けようとして本件自動車を中央分離帯に衝突させ、これにより同自動車の助手席に同乗していた(当時Aと内縁関係にあった)Bを死亡させる事故を引き起こした。
Aは、Y保険会社との間で記名被保険者をAとする自家用自動車保険契約を締結した。YがAと締結した本件自家用自動車保険(PAP)の普通保険約款第1章賠償責任条項第10条には、「Yは、被保険自動車で被保険者の父母、配偶者又は子の生命・身体が害された場合に、それによって被保険者が被る損害をてん補しない。」と定められている。
 Bの相続人であるXらは、Yに対し約3000万円の保険金の支払を請求した。しかし、YはBはAの内縁の妻であるから自家用自動車保険普通保険約款第1章賠償責任条項8条3号が適用されるとして保険金の支払を拒絶した。そこでXらは本件訴訟を提起した。
 第一審判決(神戸地判平成3・3・26)及び第二審判決(大阪高判平成3・11・29)は、Xらの請求を棄却。Xらが上告した。

裁判所の判断]
 本件上告を棄却する。
 Aと被上告会社との間に締結されていた後記の自家用自動車保険契約に適用される自家用自動車保険普通保険約款(以下「本件約款」という。)の第一章賠償責任条項八条三号には、被保険者が被保険自動車の使用等に起因してその配偶者の生命又は身体を害する交通事故を発生させて損害賠償責任を負担した場合においても、保険会社は、被保険者がその配偶者に対して右の責任を負担したことに基づく保険金の支払義務を免れる旨が定められているところ(以下、右の定めを「本件免責条項」という。)、本件免責条項にいう「配偶者」には、法律上の配偶者のみならず、内縁の配偶者も含まれるものと解するのが相当である。その理由は、次のとおりである。
 (1) 本件免責条項が設けられた趣旨は、被保険者である夫婦の一方の過失に基づく交通事故により他の配偶者が損害を被った場合にも原則として被保険者の損害賠償責任は発生するが、一般に家庭生活を営んでいる夫婦間においては損害賠償請求権が行使されないのが通例であると考えられることなどに照らし、被保険者がその配偶者に対して右の損害賠償責任を負担したことに基づく保険金の支払については、保険会社が一律にその支払義務を免れるものとする取扱いをすることにあり、右の趣旨は、法律上の配偶者のみならず、内縁の配偶者にも等しく妥当するものである。
 (2) 本件約款の第一章賠償責任条項三条は、被保険自動車の使用等に起因する交通事故を発生させたことに基づき損害賠償責任を負担することによって被る損害について、保険によりてん補される責任主体としての被保険者の範囲を明らかにした最も基本的な定めである。そして、同条の一項二号(イ)には、被保険自動車を使用又は管理中の記名被保険者の配偶者が被保険者に含まれる旨が定められている。ところで、右の定めが設けられた趣旨は、一般に右の配偶者も被保険自動車を使用する頻度が高いと考えられるため、同人を当然に被保険者に含めることとして、前記の損害を保険によりてん補される被保険者の範囲を拡張しようとするところにある。この点では、法律上の配偶者と内縁の配偶者とを区別して別異に取り扱う必要性は認められないから、右三条一項二号(イ)にいう「配偶者」には、法律上の配偶者のみならず、内縁の配偶者を含むとすることにつき何らの支障も認められない。そして、同一の約款の同一の章において使用される同一の文言は、特段の事情のない限り、右の章を通じて統一的に整合性をもって解釈するのが合理的であるというべきところ、右三条一項二号(イ)と本件免責条項とは同一の約款における同一の章に設けられた定めであって、右各条項にいう「配偶者」の文言を異なる意義に解すべき特段の事情も認められない。


< 前へ一覧次へ >

このページの先頭へ[1]

HOME[0]


事務所のご案内
お問い合わせ
プライバシーポリシー

Copyright (C) 竹口・堀法律事務所
All rights reserved.