賃貸借契約に関する裁判例(東京高判平成26年4月9日(平成25年(ネ)第322号))
(はじめに)
当事務所では,不動産問題や賃貸借契約に関する問題についてご相談を受けることも多いので,賃貸借契約について気になった裁判例(東京高判平成26年4月9日(平成25年(ネ)第322号))をご紹介いたします。
(事案の概要)
本件は,アパート1階の居室(本件建物)の賃貸借契約の賃貸人であるXが,賃借人であるYに対し,Yによる本件建物の近隣住民及び本件建物の他の入居者に対する度重なる迷惑行為によって,賃貸人と賃借人との間の信頼関係が著しく損なわれ,破壊されたことを理由として本件賃貸借契約を解除したと主張し,本件賃貸借契約の終了に基づく本件建物の明渡しを求めた事案である。
XY間の賃貸借契約の約款には,①賃借人は本件建物内において近隣の迷惑となるような行為をしてはならない,これに違反して近隣と紛争が生じた場合は,賃借人の責任においてこれを解決するものとし,関係者の改善通告に従わない場合は,賃貸人は本件賃貸借契約を解除することができる,②賃借人が粗野又は乱暴な言動により,他の入居者に迷惑・不快の感を抱かせるおそれが明らかな場合は,賃貸人は賃借人に対する通知・催告を要せず,本件賃貸借契約を解除することができる,③本件賃貸借契約において,賃貸人・賃借人間の信頼関係が著しく損なわれたと認めた場合は,賃貸人は賃借人に対する通知・催告を要せず,本件賃貸借契約を解除することができる旨の特約が存在した。
原審は,Xの請求を認容したところ,これを不服としたYが控訴した。
(東京高等裁判所の判断について)
本件の争点は,Yの近隣住民等に対する迷惑行為を理由とする賃貸借契約解除の効力の有無である。
本判決は,Yが,近隣住民等の雨戸の開閉,立ち話,子供の遊び声,飼い犬の鳴き声,室外機の音など,社会生活上日常的に発生する音に対して嫌悪感を示し,深夜に怒鳴り散らしたり,頻繁に匿名を装って警察に通報したり,保健所に連絡するなどしたほか,「犬の鳴き声がうるさい。損害賠償する。」「早朝,食器等の音をガチャガチャ立てて響かせて非常に迷惑だから静かにすること。夜も話し声が大きくアパートに音が漏れて,とてもうるさいから気をつけること。頭痛がひどくなるから静かにすること。」等の警告文を記載した葉書やメモを近隣住民等の自宅のポストに度々投函したり,夜中に本件建物の玄関のドアや窓のシャッターを大きな音を立てて閉めるなどの迷惑行為を行ったこと,Yによる度重なる近隣住民等に対する迷惑行為に耐えかねた近隣住民等が16名の連名で区役所及び警察に対して善処を求める要望書を提出する事態となり,更には本件建物の隣室の入居者が賃貸借契約を解約して退去し,その後10か月以上にわたり空き室となって賃料が受領不能となったためXが隣室の新入居者を決めるために通常の賃料から減額したこと,Yは本件解除の後においても同室に入居した者に対して同様の迷惑行為を行い,同入居者からXに対して苦情の申入れがされている等を認定した上で,本件賃貸借契約の基礎となる賃貸人であるXと賃借人であるYとの間の信頼関係は,本件特約が定める禁止行為に該当すると認められ,本件特約に違反するYによる上記の近隣住民等に対する度重なる迷惑行為によって著しく損なわれ,完全に破壊されており,その回復の見込みはないといわざるを得ないとし,本件解除を有効であるとした。
佐世保・長崎の弁護士
竹口・堀法律事務所