セクハラと慰謝料等(H22.6.15判決)
(はじめに)
当事務所では、男女問題も労働問題も取り扱っていますが、その両方に関係するご相談として、セクハラに関するご相談も多いです。
そこで、今回は、セクハラ問題に関する裁判例(奈良地判平成22年6月15日(平成20年(ワ)第1020号)損害賠償請求事件(セクハラ)))をご紹介します。
セクハラ行為に対して、慰謝料などの損害賠償請求の一部が認められた事案です。
(事案の概要)
本件は,Y1会社に派遣労働者として雇用され,派遣先のY2会社の業務に従事していたXが,上司であった亡Aから,携帯電話の番号を聞かれたり,繰り返し性的な言動を聞かされたり,尻を触られるなどの本件セクハラ行為を受けたことから,抑うつ神経症を発症したとして,Y1に対しては不法行為に基づき,Y2については使用者責任に基づき,合計697万円余(ただし,Y1については,全損害の2割に相当する139万円余の限度で不真性連帯債務)の支払を請求した事案である。
(裁判所の判断)
本件の争点は,①セクハラ行為の有無,②セクハラ行為とXの抑うつ神経症との因果関係の有無,③派遣元Y1の不法行為責任の有無,④損害額等である。
裁判所は,争点①につき,亡Aは,Xに対して,携帯電話の番号を教えるよう執ように迫ったこと,Xに対して,背中の刺青を見せてほしいと言ったこと,「エッチしよう。」といった性的発言をしたり,作業中のXの尻を触ったりしたこと,Xに自己のメールアドレスを渡し,Xのメールアドレスを教えるよう言ったこと,Xに対して毎日のように業務と関係のないメールを送りつけたこと,亡Aは,Xからメールを送ることをやめるよう言われ,遅くとも平成20年5月30日には,Xのメールアドレスを削除した旨のメモを渡して,Xに対する一連の本件セクハラ行為をやめたこと,亡Aは,同年6月3日にはXに対して謝罪をしたこと,亡Aは,警察署での取調べにおいても,Xの携帯電話の番号を聞き出そうとしたり,尻を触ったことは認めたことが認められることからすれば,亡Aが,原告に対して,上記認定事実の限度で本件セクハラ行為を行ったことが認められるとした。
争点②については,Xは,同月4日までは,特段の問題もなく出勤し,健康上の理由で欠勤したことがないこと,Y2の安全衛生チェックシートの悪いという項目に丸を付けたことがないこと,亡Aから本件セクハラ行為を受けていた間も精神的な不調を訴えなかったこと,本件セクハラ行為について亡Aらと話し合った平成20年6月4日も健康上の問題が見られなかったこと,Xの夫Bが本件セクハラ行為についてY1との話合いに関与し始めてから原告の体調に変化が見られるようになったこと,Y1やCとの話合いはBが主導していたこと,亡Aが自殺した後も原告の症状が悪化したことが認められることから,本件セクハラ行為が原告の精神的な面に少なからず,影響を及ぼしたことはいえるとしても,抑うつ神経症の原因となったとまでは認められないとして,本件セクハラ行為と原告の抑うつ神経症との間に相当因果関係は認められないとした。
争点③について,派遣元会社は,派遣従業員との労働契約に付随する信義則上の義務として,派遣先において働きやすい労働環境を整備すべき義務があるものの,派遣元会社は,派遣先に対して,指揮命令権を有するわけではなく,派遣従業員も派遣先の指揮命令に服することになるから,派遣元会社としては,派遣先の経営方針に介入しない限度で派遣従業員の労働環境の維持に資する対応をとれば足りると解すべきであるとし,Y1は,派遣先企業であるY2に2名を派遣管理責任者として常駐させ,職場環境の見回りや従業員からの意見の受付などをしていたこと,意見箱を設置し,派遣従業員からの意見を聞く体制があったこと,安全衛生チェックシートで派遣従業員の心身の健康状態を把握していたこと,本件セクハラ行為が発覚するとX及びY1に事実確認を行ったこと,Y1に対して,Xの要望を伝えたこと等の事実によれば,Y2は,派遣元企業として,派遣従業員の心身の健康状態を把握し,意見を聞く体制を整えて,セクハラを未然に防止できる体制を築くとともに,本件セクハラ行為に対しても,適切な事後的措置をとったものと認められることから,Y2は,派遣元会社として,Y1の経営方針に介入しない限度で,派遣従業員に対するセクハラの対応策を講じており,上記労働契約上の信義則上の義務違反があったとはいえないとした。
争点④については,本件セクハラ行為と原告の抑うつ神経症との間に因果関係が認められないから,原告が抑うつ神経症を罹患したことによる治療費,通院にかかった交通費及び休業損害については,本件セクハラ行為によって生じた損害とはいえないとした。
慰謝料については,本件セクハラ行為の内容,本件セクハラ行為が約半年以上続いたこと等,諸般の事情にかんがみ,70万円が相当であるとした。このほか,弁護士費用相当額として7万円を認め,合計77万円が認められるとした。