離婚後の監護費用の請求(H23.3.18判決)
(はじめに)
今回は,離婚後の子どもの監護費用(養育費)の請求が,権利濫用にあたり認められないとされた判例(最判平成23年3月18日(平成21年(受)第332号)離婚等請求本訴,同反訴事件)を紹介します。
(事案の概要)
本件は,X(夫)が,Y(妻)に対し,離婚等を請求するなどし,Yが,反訴として,Xに対し,離婚等を請求するとともに,長男,二男及び三男の養育費として,判決確定の日から,長男,二男及び三男がそれぞれ成年に達する日の属する月まで,一人当たり月額20万円の支払いを求める旨の監護費用の分担の申立て等をした事案である。
Xは,監護費用について,二男との間には自然的血縁関係がないことから,監護費用を分担する義務はないと主張した。なお,Xは,本件提訴前,二男との間の親子関係不存在確認の訴え等を提起したが,同訴えについては却下する判決が言い渡され,同判決は確定している。
原審は,Xと二男との間に法律上の親子関係がある以上,Xはその監護費用を分担する義務を負うと判断した。
(最高裁判所の判断)
最高裁判所は,YがXに対し離婚後の二男の監護費用の分担を求めることは,権利の濫用に当たるとした。
理由は以下のとおり。YはXと婚姻関係にあったにもかかわらず,X以外の男性と性的関係を持ち,その結果,次男を出産したが,それから約2か月以内に二男とXとの間に自然的血縁関係がないことを知ったにもかかわらず,これをXに告げず,Xがこれを知ったのは二男の出産の7年後のことであったため,Xは,二男につき,民法777条所定の出訴期間内に嫡出否認の訴えを提起することができず,そのことを知った後に提起した親子関係不存在確認の訴えは却下され,もはやXが二男との親子関係を否定する法的手段は残されていない。他方,Xはこれまでに二男の養育・監護のための費用を十分に負担してきており,Xが二男との親子関係を否定することができなくなった上記の経緯に照らせば,Xに離婚後も二男の監護費用を分担させることは,過大な負担を課すものである。YはXとの離婚に伴い,相当多額の財産分与を受けることになるのであり,離婚後の二男の監護費用を専らYに分担させることができないような事情はうかがわれないから,子の福祉にも反しない。
以上の事情を総合考慮すると,YがXに対し離婚後の二男の監護費用の分担を求めることは,監護費用の分担につき判断するに当たっては子の福祉に十分配慮すべきであることを考慮してもなお,権利の濫用に当たるというべきである。